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2005年10月06日

第6回 株式会社 伊藤染工場 代表取締役社長 伊藤 純子 様

PROFILE

株式会社 伊藤染工場 代表取締役社長 伊藤 純子 様

昭和34年、花巻生まれ。
大正10年創業の印染工場の3代目。2人の兄を持つ末っ子のため、次期後継者としての意識が全くないまま育つ。東京で就職中、お母様が体調を崩し帰郷。お母様と一緒に着物のセールスを担当しながら家業を手伝う。お父様(2代目)のガン宣告、後継者だった長兄のご逝去を経て徐々に経営者としての自覚に目覚める。お父様を在宅看護しながら会社の陣頭指揮にあたり、平成13年代表取締役就任。経営に理念やビジョンを取り入れ、CADも導入するなど伝統と革新を融合させている若手経営者。
株式会社 伊藤染工場ホームページ → http://www.ito-some.jp/





■ 老舗の末っ子お嬢様がなぜ?

さゆり 純子さんが老舗伝統産業の経営者になるまで、長い物語がありそうですが。。。
純子  はい、家は兄が2人いたので、後を継ぐなんてこれっぽっちも思っていませんでした。短大に行って、東京の自動車会社でお勤めしていたんですね。そしたら母が体調を崩したんです。手術が必要なので「看病しに帰ってこい」と父に言われて。親の言うことを聞くのはあたりまえとして育ったので、2つ返事で帰ってきたんです。
さゆり それからずっと実家でお仕事をなさっているのですか?
純子  そうです。母が退院してからは一緒に呉服部門のセールスにまわりました。今経営者の立場になって初めて母の営業方法のすごさがわかります。だって…お客さまのタンスの中身を全部知っているんですよ。(笑)電話で相談されても「あの帯とこの着物を組み合わせて」というふうにコーディネイトできるし、脱いだ着物は預かり、クリーニングして返す。売っておしまいじゃなくアフターフォローを完璧にしてましたね。
さゆり 当時はお母さまのすごさには気づかず?
純子  まったく気づきませんでした。(笑)自分のお給料分くらい売ればいいかなって。自分が経営者だったら、そんな社員はちょっと…ねぇ。(笑)
さゆり そんな純子さんにその後何があったのでしょう?
純子  母は昭和63年に亡くなりました。次に平成7年、父がガン宣告を受けたんです。でも父はすごく気丈な人でしたからその後も普通にばりばり働いていたんですけどね。そして翌年、後継者だった専務(長兄)が亡くなったんです。
さゆり えっ(絶句)。お父さまは、2番目のお兄さんでなく何故純子さんに期待をかけたのでしょうか?
純子  2級ボイラーの試験を受けようと思ってちょっと勉強したんですね。 社内で資格を持っていたのは、定年間際の社員と病気の父だけだったので…誰かが資格をとる必要があっただけなんですよ。父から見ると、すごくやる気があるように見えたんじゃないかしら。2番目の兄は東京在住でもあり当時の都合もあったので、父にとっては諦められない気持ちもありつつ「俺は純子に決めたから」と伝えたらしいんです。
さゆり それから後継者としての英才教育がはじまった?
純子  教育とは違いますけど、介護の意味もあって会合やいろんなところに付き添いという立場で連れていかれるようになりましたね。今思うとあの時期にいろいろな人へ顔をつないでくれていたのでしょうね。

■ 知らないままではいられない

さゆり 染物についてかなり詳しくなっていたんですか?
純子  それが全然。父が初代会長を努めた「全国青年印染経営研究会」という会に連れていかれたんですが、父の発言を聞いて「うちはそういうのも扱ってるんだ~。」と初めて知ることばかり。でもそこで出会った経営者の人たちには本当に助けられました。自分の知っていることは何でも教えてくれたんです。
さゆり えっ?同業者にノウハウを教えるんですか?
純子  そうですねぇ。「印染業界全体をよくしよう、印染を世の中に広めよう」という意識がありますから、会員同士助け合えるんですね。技術職の社員がいきなり倒れてしまい、彼じゃないとわからない技術があって困ったことがあります。遠方の会員に電話したら「すぐ来て。やり方教えるから」って言うんです。もちろんすぐ新幹線に飛び乗りました。帰ったら教わったことをやってみる。うまくいくまで試行錯誤の毎日でした。
さゆり すばらしいお仲間というか指導者に恵まれましたね。
純子  はい、本当に周囲の人たちには恵まれていると思っています。染物業界以外では志戸平温泉(株)の久保田社長にいろいろ勉強させていただきました。久保田社長はうちの兄(専務)と高校の同級生で青年会議所でも一緒だったんです。だからある時「社長やるの?本気でやるなら教えるよ」って言ってくだって。それから久保田社長が主宰している経営勉強会に参加させていただきました。最初は聞く事全て「それは大会社の事だから…うちにはそんな事は無理。」そんな風にしか思えませんでしたよ。でも正直に会社の中の話をしていくうちに「お前の会社は面白いな~やる事が一杯あって。」と言われたんです。嘆いているより、面白がって当たれって教えてくださったのだと思いますね。その時、思わず聞きましたよ。「社長は落ち込む事があるんですか?」って。(笑)
さゆり すごい。久保田社長らしいですね(笑) ところでお父様の体の具合はどうでしたか?
純子  いよいよ入院が必要となったんですが、労災病院初往診が認められて在宅介護ができました。父もわたしも恵まれていたと思います。わたしも仕事をしながら看病ができましたし。ただ、父亡き後を考えると今のうちに自分が代表権を持つべきだと思うようになって、創業80周年、平成13年に社長に就任させていただきました。。その1年半後、父は亡くなりました。わたしがだっこしている腕の中で明け方息をひきとったんです。自分としては、父を100%看護しきれたという満足感があります。久保田社長もそうですが、名前をあげたらきりがない程、たくさんの人たちに支えていただきました。本当に感謝しています。
さゆり お父さまも幸せな最期でしたね。いよいよ経営者としてひとりだちですね。

■ わたしらしい経営を

純子  社長就任披露の挨拶で「伝統は革新の連続」という言葉を使いました。何かで読んで頭に残っていたのかもしれないですけど(笑)経営理念をプリントしたファイルをお招きしたお客様と社員のみなさんの席に置いて、自分の決意を述べたんです。新しいことをはじめると反発があるのは覚悟の上でした。実際やめる人もいましたし。ただ「わたしがこういう会社にしたい」とはっきり意思表示をするようになったら、不思議とそういう人が集まるようになったんです。
さゆり 自分の意識でそんなに変るものなんですか!
純子  そうですねぇ。わたしが専務になって何をしていいかわからないまま初めてしたことは、社員さんの履き物を揃えることだったんですよ。黙ってみんなの履き物を揃え出したら、2週間もたたないうちに社員さんが自分できちんと履き物をそろえるようになったんです。
さゆり 強制したわけでもないのに。
純子  それと、うちの理念が「共に感動」っていうんです。自分たちとお客様が製品を通じて一緒に感動できるような製品を提供していこうと思っています。「ありがとう」はこちらがお客さまに言う言葉でしょう?でも客さまから反対に「こんな素敵につくってくれてありがとう」って言われるのって感動ですよね。社員も自分で納得いかない部分は自発的にやりなおしたりして、丁寧なものづくりをしています。わたしが「もういいんじゃない?」っていうくらい(笑)。やりなおしって時間のロスなんですけど、それは将来につながることなのでロスじゃないと認めています。今後は「さすが伊藤染工場の社員だな」と言われるような人づくりに頑張っていきたいですね。
インタビューを終えて
「さゆりさん、わたしのほどきさん(花巻の方言。仏壇のこと)を見ていって」と仏間に通されました。きれいに片付いた仏間は開け放たれて、いつでも社内の様子が見えるのです。ご両親、ご兄弟に孝を尽くし、ご先祖さまを大事にしている純子さん、あの世から皆さまが熱烈支援していることを強く感じました。手相をみてもらったら「最初から(社長就任)は決まってたわね」と言われたそう。
「みんなが大変ね、かわいそうねっていうけど本人はそうじゃないのに。」と明るく笑う純子さん。出来事を自然体で受けとめるたおやかさとしなやかさを感じました。純子さんならではの方法で、伝統産業に革新を取り入れつつ成長していってください。次回はプライベートで飲みに行きたいです♪これからも先輩経営者としてよろしくお願いいたします。
株式会社 伊藤染工場 ホームページ → http://www.ito-some.jp/

投稿者 bcac : 2005年10月06日 09:35

コメント

取材に同行しましたスタッフ瀬川です、当日は不躾な言動ばかりで大変失礼致しました、この場を借りてお詫び申し上げます。私から見た三代目純子さんの印象は、早い決断と行動力、非常にテキパキとして「男前」な方だなあ(失敬!)と惚れ惚れしてしまいました。これからも印染業界をリードしていくに違いありません、ついて行きます!ご先祖様達がずらっと並んだ仏間は圧巻で、思わず座り込んで拝まずにはいられませんでした。それでいてどこか懐かしい雰囲気(おばあちゃんちへ行ったような)につつまれたとても暖かな場所でした、取材に立ち会わせて頂き本当にありがとうございました。

投稿者 bcacKANA : 2005年10月06日 20:41

伊藤社長様とは、現在研修でご一緒させて頂いております和田と申します。この数ヶ月で沢山の事を教えて頂き、大変感謝致しております。伊藤社長の情報源がこのHPを見て良く理解出来ました。また、社員さんが作ってくれた背中に「道」襟に「夢」と染めた半纏の出来がすごく良い理由も分かりました。理念が浸透した会社に発展されることと思います。私も出会いを大切にし、与えられた状況を楽しんでいきます。このHPに出会えて"ツイてる!"今後とも宜しくお願いします。

投稿者 和田 厚 : 2005年11月08日 20:40

伊藤純子さんとようやくプライベートで飲みにいきました!
うれしい年の瀬です。
来年は がっつり 伊藤純子さんをプロデュースしますよ!
お楽しみに!

投稿者 sayu : 2005年12月30日 17:19

ホームページ拝見しました。
大変温かい気持ちになりました。
参考になりました。ありがとうございます。

投稿者 成田 : 2007年02月11日 20:28

三代目 ご活躍されているようで 何よりです。
「伝統は革新の連続である」は、虎屋黒川社長様の言葉だと思います~~。

未来永劫 印染業界が発展できるよう ともにがんばりましょうね!!花巻へお蕎麦食べに遊びに行きますので、そのときは宜しくお願いいたします。

投稿者 全染研のマリン : 2007年02月27日 18:54

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